
ようこそ、静岡の“おいしい”がぎゅっと詰まった大きな絵の世界へ。
このファサードは、まるで“●●を探せ”。でも、探すのは静岡各地の旬の味、伝統の知恵、未来につなぐ食のカタチです。「これは駿河湾の桜えび。」「ここに描かれているのは竹取物語のかぐや姫だね。」「ふじっぴーの凧も飛んでるね!」地球環境史ミュージアムの佐藤館長が、ユニークな視点で静岡の食文化を解説します。
さあ、あなたも“しずおか食の地図”の中を旅しながら、見て・知って・味わってください。
ファサードに出てくるイラスト

わさびとワサビ漬け
静岡の山あいでは、清らかな湧き水を使って、わさびが育てられています。 伊豆の天城や安倍奥の有東木(うとうぎ)では、今も「畳石式(たたみいししき)」 という伝統的な方法で、大切に栽培が続けられています。 わさびはツンとした辛さの中に、自然な甘みと香りがあります。 チューブでは味わえない、本物のわさびのおいしさ。 その味は、静岡の自然と人の知恵がつくり出したものです。ワサビの葉は、 これも静岡が誇る日本酒の副産物である酒粕を使ったワサビ漬けとして使われています。

塩鰹(しおがつお)
伊豆半島の西伊豆だけで作られてきたカツオの加工食品。江戸時代以来の伝統をもちます。毎年晩秋に1本釣りで上がったカツオのワタを抜き、塩を詰めて作る保存食で、おもに正月に供されています。これを含め、静岡県にはさまざまなカツオの食文化があります。

茶娘
静岡県の茶葉(お茶の葉)の生産は鎌倉時代に始まりますが、明治時代に入ると、廃業した武士らが茶畑を開墾したこと、清水港からの輸出がはじまったことなどで爆発的に伸びました。茶葉は、年に何回か、その新芽の部分を摘み取り加工されますが、かつてはこのような装束で作業にあたり、茶娘と呼ばれていました。

ところてん
ところてんは伊豆半島南部で採れたテングサを煮溶かし流水で冷やして固めた ゲル状の食品で、食べるときに木枠の片方の開口部に目の粗いメッシュをはめた 「天突き」という道具を通してひも状にします。地域により食べ方が異なり、 近畿一円では黒蜜をかけて甘くして食べますが、それ以外の地では三杯酢で 食べます。なお、これをフリーズドライして精製したものが寒天です。

駿河シャモ
駿河シャモは、静岡県で育成された特別な地鶏です。元気に動き回れる環境で育てられ、肉はしっかりした歯ごたえがあり、強いうま味があります。特徴のひとつは、静岡のお茶を混ぜた特別な飼料。お茶の成分が健康を助け、肉の風味をより深くしてくれます。自然と人の知恵、そして静岡らしさがつまった地鶏です。

とんびはとろろのお師匠さん
静岡の一部地域に伝わる童歌で美味しいとろろ汁の作り方を表現しています。十返舎一九の「東海道中膝栗毛」で、主人公の弥次さん喜多さんは茶屋の店主夫妻の喧嘩に巻き込まれます。とろろ汁をぶちまけられ結局食事にありつけないというコントのようなシーン。そんな作り方では師匠であるとんびも滑ってしまうよと、美味しい作り方を知ってる地元出身の一九さん。わずかな力加減やスピードが味を左右するとろろ汁も「ピ〜トロロ」と、大空に弧を描くような心持ちで作り、味わいたいですね。

焼畑地
水窪や井川などの北遠・おくしずで行われていた焼畑農業では、ソバ、キビ、アワ、コウボウキビと呼ばれるシコクビエ、などが栽培されてきました。焼畑農業はしばらく途絶えていましたが、井川では地域の人たちの努力で復活が図られています。焼畑は、そこに生えていた草木を焼いてできた灰を肥料に使う、環境調和型の農法のひとつとして、最近注目を集めています。

柚餅子(ゆべし)
北遠に今も残る柚餅子は,ユズ釜(熟したユズの果肉部をくりぬいたもの)に味噌やゴマ、クルミなどを詰め、蒸してから乾燥させたもの)で高たんぱくの保存食です。山奥を旅する旅人や戦場での戦闘食として重宝されていました。なおこの柚餅子は、ユズの香りをつけた甘い餅菓子であるもう一つの柚餅子とは別ものです。

修験の道者たち
奈良時代以降各地には修験道が成立したが、伊豆はそのもっとも古い土地の一つで、後に富士山周辺の修験として発展したともいわれています。最近の研究によって、伊豆半島には半島を周遊する遍路があったことも明らかになりつつあり、その全容の解明と復興が期待されています。

ニジマス
富士山の西麓では、富士山に降り注いだ降水が、至るところで湧水として湧き出しています。富士宮市などでは、この清く豊かな利用したニジマスの養殖が盛んで、その生産量は全国の生産量の4分の1にもなります。養鱒事業は1930年代に県の事業として始められ、品種改良も進められてきましたがその後民間に移譲され、複数の事業者が産地形成に努めてきました。

弥次さんと喜多さん
19世紀初めに出された十返舎一九の『東海道中膝栗毛』の主人公で、江戸から大坂にいたる東海道上の各地を面白おかしく旅します。地図の中では何カ所かに登場しますので探してみてください。

ウナギ
ウナギは回遊魚で、太平洋の沖合で産卵し成長につれて成長しながら陸地に近づいて川をさかのぼります。けれども今では多くは養殖に頼り、静岡では浜名湖周辺や大井川河口の吉田町付近が大産地になっています。その生態から肥育には良質の淡水が大量に必要なことから産地が形成されました。また三島市から清水町にも鰻料理店がたくさんみられますが、これらはウナギを富士山由来の湧水でしばらく育てて泥を吐かせているのだそうです。

四ツ溝柿
静岡県は果樹生産も盛んです。温暖な土地がらから、みかんの仲間(柑橘)の生産がとくに盛んですが、落葉果樹であるカキの産地としても知られています。角ばった果実の甘柿品種の一つである「次郎柿」の原木が森町にあります。また渋柿で、果実に4つの溝ができる「四ツ溝柿」の原産地は愛鷹山の南東山麓といわれています。